Really Saying Something

雑文系ブログです。

植本一子「かなわない」と安田弘之「ちひろさん」

ちょっと前に植本一子さんの「かなわない」(タバブックス)を買って読みました。

かなわない

かなわない

あんまり書評などは見ずに、いきつけの本屋さんで面出しされていたのを見つけ、植本さんのお名前は存じていたので(はてなダイアリー使っておられたし)ぱらぱらとめくって、前半の淡々とした筆致の日記と、唐突に現れた「二回も離婚を申し込み、そして断られている」(p196)を見て、これはなんだかよくわからないけど読まないといかん気がする、と思ってその場で即買い、その後2日間で読み切ったのでした。

感想を書くのは難しい本です。日記と、エッセイ、詩、日記、物語、といろいろなタイプの文章が混ざっていますが、もともとWebで日記を読むのが好きな自分にとっては全く苦もなく読める構成です。ただ、中身が難しい。心情を淡々と追って(大変そうだな、と思いながらも)読み進めていったら、突然嵐のような日々に移ります。あれ、あれ、と思っていると、今度は植本さんを導く「先生」とのやりとりが合間に挟まってきます。

最後までたどりついて「こんなのはひどい」という読後感を持つ人も多いんじゃないかと思います。でも私には(すべてはわからないけれど)なんとなく書かれた出来事を理解できるし、「ただそこにあった私の物語にすぎない」(あとがき、p284)と結ぶ植本さんの気持ちに共感するのでした。自分の物語を表現できるか、できないか。これは最近とみに感じる機会がたくさんあります。書ける人はその時点で何かのハードルを既に超えることができていて、私にはそれはとても難しいことです。単に筆力や表現力の問題ではなく、覚悟のようなものがあるかないかに尽きるのだと思っています。

「先生」が植本さんに送る言葉は、とても残念なことに(=喜ぶべきことに)、その多くが私自身に非常に当てはまることで、植本さんの試行錯誤はそのままかなり私の試行錯誤につながるものがあります。

その「先生」の名前はあとがきで初めて登場します。漫画家の安田弘之さんです。あまり漫画を読まないので、Wikipediaを見てショムニの人か!とやっとわかりました。あとがきに出てくる「ちひろ」「ちひろさん」を読んでみたいと思って、今日「ちひろさん」の1巻と2巻を買って読みました。信頼できる漫画レビュアーの記事もあったし(それで作品名だけうっすら知っていた)。

ちひろさん 1 (A.L.C.DX)

ちひろさん 1 (A.L.C.DX)

ちひろさん 2 (A.L.C.DX)

ちひろさん 2 (A.L.C.DX)

安田弘之『ちひろさん』は最高にカッコいい海辺の弁当屋さんの看板娘でありとても良いのだけどうまく良いと言えないという良さがある - From The Inside

あー、ちひろさんのようになりたいなぁ、いいなぁ、とめっちゃ素直に思ってしまうのは一体なんなのか。でも私には何かの「覚悟」が足りない。そして、覚悟が足りないなと思ってしまう私にぴったりな、「かなわない」で既に「先生」が言うこんな言葉があったりするのでした。

「あなたが他人と自分を比較するのは、自分の中に絶対の自信を持たないから。そしてそれは最初にもらえるはずだったのに、もらいそこねたんです」(p249)

「ちひろ」の方は店頭になかったので、探して読んでみたいと思います。